イエルサレムのアイヒマン
『 イエルサレムのアイヒマン 』
ハンナ・アーレント
1963
西洋現代政治学

名著の概要

ジャンル

[ "政治学", "西洋政治学", "西洋現代政治学", "哲学", "西洋哲学", "西洋現代哲学" ]

テーマ

全体主義について 悪について 罪について ホロコーストについて

概要

アーレント自身が、1961年4月11日にエルサレムで始まった公開裁判を欠かさず傍聴し彼の死刑が執行されるまでを記した記録。裁判の様子を描いただけではなく、ホロコーストの中心人物でありながらアルゼンチンで潜伏生活を送っていたアイヒマンの暮らしぶりとイスラエルの諜報機関による強制連行の様子、更にはヨーロッパ各地域でいかなる方法でユダヤ人が国籍を剥奪され、収容所に集められ、殺害されたかを詳しく綴っている。

目次

内容

アーレントはこの本の中でイスラエルは裁判権を持っているのか、アルゼンチンの国家主権を無視してアイヒマンを連行したのは正しかったのか、裁判そのものに正当性はあったのかなどの疑問を投げかけた。その上で、アイヒマンを極悪人として描くのではなくごく普通の小心者で取るに足らない役人に過ぎなかったと描き、むしろユダヤ人でさえもユダヤ人ゲットーの評議会指導者のようにホロコーストへの責任を負うものさえいたとまで指摘した。 こうした指摘の上で、以下の様に悪の陳腐性について論じている。 「彼は愚かではなかった。完全な無思想性―――これは愚かさとは決して同じではない―――、それが彼をあの時代の最大の犯罪者の一人にした素因だったのだ。このことが〈陳腐〉であり、それのみか滑稽であるとしても、またいかに努力してもアイヒマンから悪魔的な底の知れなさを引き出すことは不可能だとしても、これは決してありふれたことではない。」 また、アーレントは国際法上における「平和に対する罪」に明確な定義がないことを指摘し、ソ連によるカティンの森事件や、アメリカによる広島・長崎への原爆投下が裁かれないことを批判している。
ハンナ・アーレント
ハンナ・アーレント
ドイツ

著者の概要

ジャンル

[ "政治学", "西洋政治学", "西洋現代政治学", "社会学", "西洋社会学", "西洋現代社会学" ]

著者紹介

ドイツ出身の哲学者、思想家である。 マルティン・ハイデッガーに師事し哲学に没頭する。しかし、ユダヤ人であることから、ナチズムが台頭すると、アメリカ合衆国に亡命した。 のちに教鞭をふるい、主に政治哲学の分野で活躍し、全体主義を生みだす大衆社会の分析で知られる。 1951年に『全体主義の起源』を著し、全体主義について分析した。その後も、みずから経験した全体主義およびそれを生み出すにいたった西欧の政治思想を考察した。 1963年にニューヨーカー誌に『イエルサレムのアイヒマン-悪の陳腐さについての報告』を発表し、大論争を巻き起こした。