ソクラテスの弁明
『 ソクラテスの弁明 』
プラトン
紀元前4世紀
古代ギリシア・ローマ哲学

名著の概要

ジャンル

[ "哲学", "西洋哲学", "古代ギリシア・ローマ哲学" ]

テーマ

ソクラテスの人と思想 正しさとは何か

概要

プラトンの先生ソクラテスが、なぜ獄死することになったのかという歴史的な事柄と、ソクラテスの人と思想、そして「正しさ」とは何か

目次

内容

<告発理由>旧い弾劾 ・ソクラテスという賢者は不正を行い、また無益なことに従事する、彼は地下並びに天井の事象を研究し、神々を信じてはならないこと、また悪事をまげて善事となし、かつ他人にもこれらのことを教授した  <弁明>誹謗中傷発生の背景の説明による弁明 ・このような名声と悪評があるのは、一種の智恵があるからであり、「デルポイの神託でソクラテス以上の智者はいないとされたから」。 ・どのような智があるか確かめるため、世評の高い人に、その人が世評集めた事柄に関して質問・対話するという「問答法」を行った。(政治家・詩人・技術者) ・その結果、世評を集める人は、その実績と世評ゆえに過度に自分を評価し、善も美も真理も何も知らないのに何かを知っているという傲りがあった。そこで、彼の無知を説明したが、かえって様々な人の憎悪を買うだけに終わった。世評で賢明とされる人とは、何も知らないことすら知らず己を賢明だと思っている愚昧な人間だとわかった。むしろ、世評を集めていない人の方が謙虚であるがゆえに賢明な人がいた。 ・一方自分は、彼らより自分が無知であることを知っていることがわかり、その点において智がある「無知の知」と悟った。 ・こうして一連の歴訪を終え、神託の名において、これまでの自身のように「智慧と愚昧を持たずにあるがままでいる」のがいいか、彼らのように「智慧と愚昧を併せ持つ」のがいいか自問し、前者を選んだ。 ・これらの結果、多くの憎悪を買い敵ができるとともに、相手の無知を論証する行為により同時に傍聴者からの名声が広まった。 ・しかし、真に賢明なのは神のみであり、この神託は人智の僅少・空無さを指摘したものであり、「最大の智者は、ソクラテスのように、自分の智慧の無知さ・無価値さを悟った者である」ということであると悟った。したがって、神意である無知の知への理解を広めるべく、神の助力者としてこの活動を続けている。この神への奉仕事業のため公事・私事の暇なく、極貧に生活している。 ・また、自分の名声に触れた富裕市民の息子たちが自身を模倣して試問し、その試問によって無知を暴かれた相手が、青年ではなく自分に対して「青年を腐敗させた」と憤った。 ・しかし、批判の内容がないため、内容に窮した挙げ句、哲学者批判の常套句である「地下天上の事象を~」といった批判も併せて自身に向けられることになった。こうして詩人代表のメレトス、手工者・政治家代表のアニュトス、演説家代表のリュコンの3名が告発者となり、今回の裁判が起こされた。 <告発理由>今回の断崖 ・ソクラテスは、青年を腐敗せしめかつ国家の信ずる神々を信ぜずして他の新しき神霊を信ずるがゆえに <弁明> ①青年の腐敗について ・第一に、告発者であるメレトスは、青年の善導になど関心がないのにこのような訴訟を起こしている ・メレトスを証言台に呼び出し、「君は青年の善導が最も大事なことだということだね」「では青年を導くのはだれか。青年の善導を最重要視し、私を彼らを腐敗させるものとして訴訟を起こしているくらいだから、逆にだれが善導すべきかわかっているはず」 →メレトスはソクラテスの尋問に応じ。国法→裁判官→傍聴者→政治家とどんどん対象を広げてしまい、ついにはソクラテス以外の全員という結論になってしまった。 ・馬の場合ならそう答えないはず、調馬師以外の大多数が一緒に躾けたらかえって悪くする、青年も一緒、これでメレトスの青年善導への無関心が暴露された。 ・つづいて、ソクラテス「善より悪を欲するものはいるか」「私が青年を腐敗させたことは無自覚か過失」と問う。 →メレトス「悪を欲するものはいない」「故意」 ・ソクラテス「ならば、自身は青年を害し、そのために青年からも害されることをわかって故意に行なっているとんでもない愚者になってしまうが、そのような者はいない。したがって、自身は青年を害さないか、無自覚かのどちらかである」ここからメレトスはうそをついている ②国家の信ずる神々を信ぜずして他の新しき神霊を信ずるがゆえにについて ・ソクラテス「国家の認める神々ではなく他の新しい神霊(ダイモニヤ)を青年に教えて腐敗させているということでまちがいないか」「それはアテナイ以外の神々を信じるということか、それとも無神論者ということか。」 →メレトス「左様。断固としてそう主張する。」「貴君は総じて神々を信じていないことを主張する」 ・ソクラテス「とすると、神を信じていないのに青年に教えているという矛盾が発生する」メレトスこそが実は高慢・放恣な無神論者であり、この訴状もそうした青年の出来心ゆえに思える。メレトスの訴状・主張は(「ソクラテスは罪人。神を信じないが故に、しかも神を信じるが故に。」という)矛盾を孕んだ謎かけのよう。 ・メレトスがこのような訴状を起草したのは、我々を試しているのか、自身(ソクラテス)を陥れる罪過に苦慮した結果かのどちらか。 ③最終弁論 ・とはいえ、私を滅ぼすのは、メレトス(なる小物)ではなく、大衆からの多大な敵意だ。それら大衆によって死の危険に晒される営みであっても、人は自身の持ち場・使命を死をも厭わず固守すべき。 ・今も自身が神から受けたと信じる持ち場、愛智者として他者を吟味する持ち場を、死などを恐れて放棄することはできない。それをしてしまうことこそがむしろ、神託の拒否、賢人ならずして賢人を装う虚偽、神の不信の罪であり、法廷に引き出されるに値する。 ・そもそも、死が何かを知っている人はいない。なのに、それが最大の悪だと確知しているかのようにこれを怖れる。 ・したがって、アニュトスの「ソクラテスを死刑にするか、放免して子弟を一人残らず腐敗させるかの二者択一」という意見はともかく、今回放免と引き換えに姿勢変更を求められたとしても、自身はこれまでの姿勢を決して変えない。自身は諸君よりも神に従う。息と力の続く限り、知恵を愛求し、諸君に忠告することをやめない。そうした人々には「誇りあるアテナイ人でありながら、蓄財・名声・栄誉ばかりを考え、智見・真理・霊魂を善くすることを考えないのは恥辱と思わないか」と指摘する。 ・これは私が神から与えられた使命だから。いまだかつて、神に対する私のこの奉仕に優るほどの幸福が、この国において諸君に授けられたことはいまだかつてなかったと信じている。 ・それは身体・財産よりも、霊魂の最大可能の完成への追求、それを熱心にすることの勧告、徳からこそ富や善きものが生じることの附言に他ならない。 ・諸君が自身を死刑に処するなら、諸君はむしろ諸君自身を害することになる。自身にとっては、死刑・追放・公民権剥奪は、正義に反するという大きな禍に比べれば大したことではない。 私の弁明は、ただ諸君のため、諸君が神からの賜物に対して罪を犯し、容易に見出すことのできない自身のような人物を失ってしまうことがないようにするためである。私を死刑にすれば、諸君は生涯眠り続けてしまう。長年、家庭を顧みず、何人にも家族のごとく接近し、無報酬で徳の追求を説くような行為は、人間業ではなく神の賜物である。この私の主張の証人は、すなはち貧乏である。 これらの弁明を踏まえて、判決が始まる。 ソクラテスに下された判決とは・・・?彼が語った死の意味とは・・・? 判決後にソクラテスは何を語った? 世界的名著のクライマックスはぜひ著書を実際に手を取って堪能してください。
プラトン
プラトン
古代ギリシア

著者の概要

ジャンル

[ "哲学", "西洋哲学", "古代ギリシア・ローマ哲学", "政治学", "西洋政治学", "西洋古代政治学" ]

著者紹介

プラトン(紀元前427年 - 紀元前347年)は、古代ギリシアの哲学者である。ソクラテスの弟子にして、アリストテレスの師に当たる。プラトンの思想は西洋哲学の主要な源流であり、哲学者ホワイトヘッドは「西洋哲学の歴史とはプラトンへの膨大な注釈である」という趣旨のことを述べた。