『 倫理学体系 』
1883
西洋近代哲学
名著の概要
ジャンル
[
"哲学",
"西洋哲学",
"西洋近代哲学"
]
テーマ
自由について
精神について
人間について
知識について
意思について
道徳について
概要
本書『倫理学序説』はイギリス経験論のミルやハーバート・スペンサーの議論を批判し、カントやヘーゲルの議論が支持されており、自律的な精神の作用が知識の根本的な条件であると見なして道徳活動も精神活動として捉えることを主張している。
目次
序論自然科学と道徳の観念
第1篇知識の形而上学
第2篇意思
第3篇道徳的観念と道徳的進歩
第4篇道徳哲学の行為指針への適用
内容
あらゆる知識は人間の自由によって基礎付けられており、特に永遠的意識の関与によって知識が成立していると考える。永遠的意識とは自立し自決する自由な原因により発生する意識であり、グリーンは人間とは自由な原因であると述べている。
人間も動物も知識を持つ事実に関して自然な存在ではなく、人間は自然関係から区別された自我を持っている。この自我は時間の経過によって制約されることはなく、意識が含んでいる自由を妨げることはできない。
グリーンは人間が意識の自由を持つということが、感性的な発展の条件となっていることを論じている。このような人間の自由を哲学的な基礎にすえながらグリーンは倫理的基準について、人間の行動の動機は常に何らかの善の観念を含んでいると考える。なぜなら、自由な意識を持つ個々人の本性に善が存在するとグリーンが考えているためである。
グリーンはこの道徳哲学の枠組みを政治哲学の領域にも適用することにより、市民的な義務について考察している。
そして、自由を、放任されることによってではなく自己実現によって規定することで、公共性や社会政策と自由主義とを統一的に理論付け、当時の自由党に対して自由放任主義の放棄を主張し、現在の自己決定と公正を重視する「リベラル」な思想への自由主義の変化の源泉の一つとなった。こうしてグリーンは単に哲学者であるだけでなく、社会思想、政治思想においても影響力を発揮するのである。彼のこの面での活躍はレオナルド・ホブハウスの新自由主義やシドニー・ウェッブのフェビアン主義につながっていく。
トーマス・ヒル・グリーン
イギリス
著者の概要
ジャンル
[
"哲学",
"西洋哲学",
"西洋近代哲学"
]
著者紹介
1836年にイングランドのヨークシャーで生まれ、ラグビー校を経てオックスフォード大学のベリオール・カレッジで学ぶ。1850年にフェローとなり、当初は学生指導員として、後に道徳哲学のホワイト教授として教育に携わることになる。
哲学の研究においては『倫理学序説』(Prolegomena to Ethics)と『政治的義務の原理についての講義』(Lectures on the Principles of Political Obligation)などの業績があるが、生前に刊行されることはなかった。しかし、グリーンはT・H・グロウスと共にグリーン・グロウス版と呼ばれるデイヴィッド・ヒュームの全集を編んだことで知られており、その序論でグリーンは観念論の立場からヒュームを批判している。研究だけでなく自由主義者として政治活動にも関与し、その関心は倫理学だけでなく、政治哲学や教育哲学にも及んだ。1882年、病気により死去。45歳であった。
イギリス理想主義のリーダーとして知られ、イマヌエル・カントとヘーゲルの影響を受けた。グリーンの唱えた人格主義は個々人の人格の陶冶、自己実現を説くものであるが、彼がその背後に神の存在を想定していたことは疑いえない。彼の真意は神を前提とした人格主義なのか、そうでないのか、その解釈を巡り研究者間で論争がある。グリーンは理想主義 (アイディアリズム)、人格主義をもとに、イギリス伝統の経験論、功利主義を批判した。そして、フランシス・ハーバート・ブラッドリーやバーナード・ボザンケなどの同調思想家を生み出し、イギリス理想主義の隆盛を生み出すのである。