墨子
『 墨子 』
墨子
紀元前4世紀ごろ
諸子百家

名著の概要

ジャンル

[ "哲学", "東洋哲学", "中国哲学", "諸子百家" ]

テーマ

世界について 人間について 人生について

概要

墨子の思想を記した書物。名目上の著者は墨翟だが、実際は墨翟本人よりも弟子たちによって記され、学派全体の思想変遷や派閥対立を伴いながら、漸増的に作成された。 全53篇が現存しているが、本来はもっとあり、一部の篇が散逸した姿と推定される。 一切の差別が無い博愛主義(兼愛)を説いて全国を遊説した。墨子十大主張を主に説いたことで世に知られている。 また、清末民初の動乱期になって、梁啓超や譚嗣同ら革命思想家にとりわけ注目された。

目次

第一部 「親士」「修身」「所染」「法儀」「七患」「辞過」「三弁」篇 断想集。序盤に配置されているが内容的には主要でない。 第二部 「尚賢」「尚同」「兼愛」「非攻」「節用」「節葬」「天志」「明鬼」「非楽」「非命」「非儒」篇 通称「十論」。墨家の主要思想。 第三部 「経上」「経下」「経説上」「経説下」「大取」「小取」篇 通称「墨弁」または「墨経」。論理学・幾何学・光学などに関する術語事典・学説集。難解。「名家(諸子百家)」も参照。 第四部 「耕柱」「貴義」「公孟」「魯問」「公輸」篇 墨翟の逸話(説話)集・言行録。 第五部 「備城門」「備高臨」「備梯」「備水」「備突」「備穴」「備蛾傅」「迎敵祠」「旗幟」「号令」「雑守」篇ほか、散逸10篇 城市防衛のための兵器工学・戦術学・軍事規律などに関する具体的な手引書。

内容

主な思想 以下が、『墨子』に伝えられる墨家の十大主張、通称「十論」である。全体として、儒家に対抗する主張が多い。また、実用主義的であり、秩序の安定や労働・節約を通じて人民の救済と国家経済の強化をめざす方向が強い。論の展開方法としては、比喩や反復を多用しており、一般民衆に理解されやすい主張展開が行なわれている。この点、他の学派と異なった特色を有する。 兼愛(兼愛交利) 兼ねて愛する(区別せずに愛する・すべて愛する)の意。万人を公平に差別無く愛せよという教え。儒家の愛は家族や長たる者に対してのみの偏愛であるとして排撃した。また、利益は無差別から生まれ、不利益は差別から起こるとした。 非攻 当時の戦争による社会の衰退や殺戮などの悲惨さを非難し、他国への侵攻を否定する教え。ただし防衛のための戦争は否定しない。このため墨家は土木、冶金といった工学技術と優れた人間観察という二面より守城のための技術を磨き、他国に侵攻された城の防衛に自ら参加して成果を挙げた。また、「一人を殺せば死刑なのに、なぜ百万人を殺した将軍が勲章をもらうのか」と疑問を投げかけている。 尚賢 貴賎を問わず賢者を登用すること。「官無常貴而民無終賤(官に常貴無く、民に終賤無し)」と主張し、平等主義的色彩が強い。 尚同 賢者の考えに天子から庶民までの共同体全体が従い、価値基準を一つにして社会の秩序を守り社会を繁栄させること。 節用 無駄をなくし倹約せよという教え。 節葬 葬礼を簡素にし、祭礼にかかる浪費を防ぐこと。儒家のような祭礼重視の考えとは対立する。 非命 人々を無気力にする宿命論を否定する。人は努力して働けば自分や社会の運命を変えられると説く。 非楽 人々を悦楽にふけらせ、労働から遠ざける舞楽は否定すべきであること。楽を重視する儒家とは対立する。但し、感情の発露としての音楽自体は肯定も否定もしない。 天志 上帝(天)を絶対者として設定し、天の意思は人々が正義をなすことだとし、天意にそむく憎み合いや争いを抑制する。 明鬼 善悪に応じて人々に賞罰を与える鬼神の存在を主張し、争いなど悪い行いを抑制する。鬼神について語ろうとしなかった儒家とは対立する。
墨子
墨子
中国

著者の概要

ジャンル

[ "哲学", "東洋哲学", "中国哲学", "諸子百家" ]

著者紹介

中国戦国時代に活動した墨家(諸子百家)の、開祖とされる人物(思想家)、およびその著書の名前。姓は墨、諱は翟(てき)。一種の平和主義・博愛主義を説いたとされる。 「墨(ぼく)」という姓から、墨(すみ)を頻繁に扱う工匠・土木業者だった、あるいは入れ墨を施された罪人だった、褐色の肌だった、など諸説ある。司馬遷『史記』孟子荀卿列伝では「蓋し墨子は宋の大夫なり」(恐らく墨翟は宋の高官であろう)として憶測の文章になっており、前漢代から早くも謎多き人物だったようである。 墨翟は、当初は儒学を学ぶも、儒学の仁の思想を差別的な愛であるとして満足しなかった。そこで、無差別的な愛を説く独自の思想を切り拓き、一つの学派を築くまでに至った。一方で、その平和主義的な思想は、軍拡に躍起になっていた諸侯とは相容れず、敬遠されがちであった。 墨翟の死後、墨家は禽滑釐・孟勝・田襄子に導かれて一大勢力となるが、最終的には消滅した。