歴史序説
『 歴史序説 』
イブン・ハルドゥーン
14世紀
中東歴史学

名著の概要

ジャンル

[ "歴史学", "西洋歴史学", "西洋古代・中世歴史学", "東洋歴史学", "中東歴史学" ]

テーマ

世界について 人間について 人生について 文明について 国家について 歴史について

概要

文明とは何か、歴史を学ぶとはどういう事かが、詳細に述べられている。まえがきにおいて、著者は『歴史』の構成を序論と3部に分けると書いている。序論は、歴史学の真価と方法論の評価、そして歴史家たちの誤りを指摘する。

目次

内容

歴史について 歴史は、外面的には報告以上のものではない。しかし内面的には、歴史は思索であり、真理の探求であり、詳細な説明であり、深い知識である。したがって歴史は哲学に根ざしており、哲学の一分派に属する。 歴史家について 歴史家は現在の状態と過去の状態との類似点を比較し、類似の原因と相違の原因を知らねばならない。諸王朝や宗団の起源、動機、支持をした人々の情況や歴史も知らねばならない。さらに、情報を基本的原則と対比して、原則が正しくなければ廃棄しなければならない。また、民族の状態が時代によって変化する事実を見落とさないようにしなければならない。 人間について 人間は、社会的結合と、食物その他を得るための相互扶助がなければ存在しえない。社会的結合を指すものとして、文明や都市がある。 王権 王権は人間にとって必要不可欠である。人間はお互いへの権利侵害や確執といった動物的性質をもっているため、抑制する者が必要であり、その人物が統治者である。 王朝と政府 王朝や政府は、文明に対する形相であり、その質料である文明が崩壊すれば必然的に崩壊する。 アサビーヤ論 王朝の交代を招く主因として、アサビーヤ(集団における連帯意識)を挙げる。「田舎や砂漠」の集団は質実剛健で団結力が強く、「都市」の住人を服属させて王朝を建てる。だが代替わりが重なると、建国の祖たちが持っていた質素で武勇を尊ぶ気風が失われ、奢侈や富裕生活への耽溺により王族同士の団結力が弱まり、かつて服属させた都市の住人のようになる。そうして支配力が低下するうちに、田舎や砂漠から来た別の集団につけ込まれ、実権を奪われたり王朝が滅ぼされてしまう。その集団によって新たな王朝が誕生するが同じ道をたどり、また次の連帯意識を持った集団に取って代わられると言う。農民と遊牧民の違い、その文明の発達、都市化という流れを押さえている。 王朝の諸段階 王朝には5つの段階があるとする。第1段階は王朝を奪い取る勝利の段階。第2段階は臣民に対する支配権を獲得する段階。第3段階は休息と平穏の段階で、財産の獲得、都市の建設などを行なう。第4段階は満足と平和の段階で、支配者は先代の伝統を踏襲する。第5段階は浪費と散財の段階で、回復せずに王朝は滅びる。また、良き支配者とは、人民に対して親切で人民を守る者だとした。 労働 労働が富の源泉であると論じる。労働の価値は、その労働量、等級、需要度によって定まる。これはアダム・スミスに連なる労働価値説の先駆とも言える。生計を営む方法には、権力によって奪取する方法(賦課、徴税)、狩猟、農業、技術、商業があり、自然な方法は農業、技術、商業だとする。また都市では労働が細分化して発達し、生活必需品以外も含むあらゆる物品が生産されて経済力が向上することを評価している。
イブン・ハルドゥーン
イブン・ハルドゥーン
イスラム

著者の概要

ジャンル

[ "歴史学", "西洋歴史学", "西洋古代・中世歴史学", "東洋歴史学", "中東歴史学" ]

著者紹介

中世のイスラーム世界を代表的する歴史家、思想家、政治家。イスラーム世界最大の学者とも呼ばれる。 アーノルド・J・トインビーは、イブン・ハルドゥーンをトゥキディデスやマキャベリと並べ、アラブの天才としている。G・サートンは、彼が中世最大の歴史家であり、マキャベリ、ヴィーコ、コント、クールノーらの先駆だとした。