河童
『 河童 』
芥川龍之介
1927
現代日本文学

名著の概要

ジャンル

[ "文学", "東洋文学", "日本文学", "現代日本文学", "日本・純文学", "純文学" ]

テーマ

ユートピア 自殺について 正気・狂気について 人間社会への風刺

概要

芥川の晩年の作品。 芥川の精神的ユートピアとしての「河童の世界」を描いており、芥川の自殺の動機を考える上でも重要な作品の一つとされている。この作品名より、芥川の命日の7月24日は「河童忌」と呼ばれている。

目次

内容

重度の精神障害者として東京郊外の閉鎖病棟に入院させられている「患者第二十三号」がいつも語るという、「河童の世界に迷い込んだ顛末」の話を、病院を訪れた聞き手が聞き取っていく場面から物語は始まる。 第二十三号曰く、彼が以前登山の最中に迷い込んだ河童の世界は、人間より一回り小さい河童たちが人間社会並かそれ以上の社会構造、科学技術を持って生活を営んでいるという。第二十三号は河童の世界にしばらく滞在し、河童の言葉・風俗・文化を見聞していったと語る。人間が面白いと思うことは河童には真面目に写り、逆に河童が面白いと思うことは人間には真面目に思えるなど、人間社会と逆の河童の社会を通して、人間社会への風刺が語られる。 例えば河童の世界では、子供は生まれてくる前の胎児の際に、親から生まれてきたいかどうか聞かれ、希望したものだけが生まれてくるという仕組みになっている。また、工場などでの技術革新のたびに発生する失業者は、屠殺して食肉にしてしまう法律があるなど、人間社会と大きく異なる河童の世界は、現実の人間社会の問題にも光を当てている。 精神病者の主人公を聞き手が聞いた内容を読者が読む、という構造上、河童の話の(小説内での)真偽についても読者に判断が委ねられている。物語の終盤に第二十三号は若年性痴呆症であると診断されるが、河童の医者は若年性痴呆症なのは第二十三号以外の人間であると告げる。正気のすぐ裏には狂気があり、自分は正気か狂気かを問い続けた、晩年の芥川の精神状態・思想を読み取ることもできる作品。
芥川龍之介
芥川龍之介
日本

著者の概要

ジャンル

[ "文学", "東洋文学", "日本文学", "近代日本文学" ]

著者紹介

明治・大正期を代表する作家の一人であり、35年の生涯の中で多くの優れた作品を生み出した。作品の多くは短編小説であり、中でも『芋粥』『藪の中』『地獄変』など、『今昔物語集』『宇治拾遺物語』といった古典から題材をとったものから、『蜘蛛の糸』『杜子春』などの児童向け文学まで幅広く知られている。 菊池寛や久米正雄ら高校の同級生たちと 文芸雑誌である『(第3次)新思潮』を創刊。その後23歳の若さで発表した『羅生門』で一躍脚光を浴びる。その後も『鼻』『蜘蛛の糸』などの作品で注目され続け、27歳では結婚し順風満帆に見えたが、妻とのすれ違いからの離婚や、自身の恋多き性格が招いた災難、実家のトラブルなど多くの問題に見舞われ、徐々に精神をすり減らし、ついに35歳のとき服毒自殺を図り、その短い生涯を終えた。没後、菊池寛により芥川賞が設けられ、今日まで続く純文学の最も権威ある賞の一つとなっている。