『 神学政治論 』
1670
西洋近代哲学
名著の概要
ジャンル
[
"哲学",
"政治学",
"西洋哲学",
"西洋近代哲学",
"西洋政治学",
"西洋近代政治学"
]
テーマ
自由について
宗教について
聖書について
神について
政治について
概要
オランダ国内で正統カルバン派の力が強大となり,宗教的寛容と自由統治の共和派が圧力を受けるようになった情勢のなかで後者に理論的支持を与えるために書かれた,旧約聖書に基づく政治・哲学論。
目次
内容
本書は、教会に対する国家の優位を前提に、思想・言論の自由の確立を目ざして徹底した聖書批判を展開する。その方法は、聖書を一個の自然物として扱い、自然研究同様、とらわれない精神で、つまり理性による解釈すら排して、聖書を聖書そのものから解釈しようとするものであった。預言、預言者、選民、神の法、奇蹟(きせき)など聖書全般に検討を加えるが、従来の諸説を偏見ときめつける革命的な内容であったため、著者名を秘し、出版地・発行人を偽って公刊せざるをえなかったにもかかわらず人々は容易に真の著者を探り当てて糾弾し、1672年、本書を禁書に指定してしまった。「無神論者」と非難され続けたスピノザが本書に寄せた汚名の除去という実践上の意図は、みごとに挫折(ざせつ)したが、聖書批判の方法論は後世、本書を通じ一般に受け入れられている。
「本書(『神学・政治論』)は、哲学する自由を認めても道徳心や国の平和は損なわれないどころではなく、むしろこの自由を踏みにじれば国の平和や道徳心も必ず損なわれてしまう、ということを示したさまざまな論考からできている」――スピノザ『神学・政治論』のエピグラム(吉田量彦訳)
自由とは,徳あるいは完全性であり,したがっ て,何事にせよ人間の無力を示す事柄は人間の自由に数えることができない。 だから人間は,存在しないことも出来る,あるいは理性をもたないことも出来る,という理由で自由であるとは決して言われ得ない。自由であると言われ得るのは,彼が人間的本性の諸法則に従って存在し・活動する力を有する限り においてのみである。このようにしてわれわれが人間 をますます多く自由であると考えるに従って,われわれは彼が,理性をもちいないことも出来る,また善の代わりに悪を選ぶことも出来るということをますます もって言えなくなるのである。そして絶対に自由に存在し・理解し・活動する神もまた 必然的に,すなわち自己の本性の必然性に従って存在し・理解し・活動するのである。神がその存在すると同じ自由性をもって活動することは疑 いないところであるから。こうして神は,自己の本性の必然性によって存在すると同様 に,また自己の本性の必然性によって行動する,言いかえれば絶対に自由に行動する。
スピノザ
オランダ
著者の概要
ジャンル
[
"哲学",
"西洋哲学",
"西洋近代哲学"
]
著者紹介
オランダの哲学者。デカルト、ライプニッツと並ぶ17世紀近世合理主義哲学者として知られ、その哲学体系は代表的な汎神論と考えられてきた。また、カント、フィヒテ、シェリング、ヘーゲルらドイツ観念論やマルクス、そしてその後の大陸哲学系現代思想へ強大な影響を与えた。
スピノザの汎神論は新プラトン主義的な一元論でもあり、後世の無神論や唯物論に強い影響を与え、または思想的準備の役割を果たした。生前のスピノザ自身も、無神論者のレッテルを貼られ異端視され、批判を浴びている。