羅生門
『 羅生門 』
芥川龍之介
1915
近代日本文学

名著の概要

ジャンル

[ "文学", "東洋文学", "日本文学", "近代日本文学" ]

テーマ

エゴ 生きるための悪

概要

『今昔物語集』の本朝世俗部巻二十九「羅城門登上層見死人盗人語第十八」を基に、巻三十一「太刀帯陣売魚姫語第三十一」の内容を一部に交える形で書かれたものである。生きるための悪という人間のエゴイズムを克明に描き出した。なお、本作は黒澤明の『羅生門』のもととなる作品でもある。

目次

内容

背景は平安時代。飢饉や竜巻などの天変地異が打ち続き、都は衰微していた。 ある暮れ方、荒廃した羅生門の下で若い下人が途方に暮れていた。下人は数日前、仕えていた主人から解雇された。生活の糧を得る術も無い彼は、いっそこのまま盗賊になろうかと思いつめるが、どうしても「勇気」が出ない。そんな折、羅生門の2階に人の気配を感じた彼は、興味を覚えて上へ昇ってみた。 楼閣の上には身寄りの無い遺体がいくつも捨てられていたが、その中に灯りが灯っている。老婆が松明を灯しながら、若い女の遺体から髪を引き抜いているのである。老婆の行為に激しい怒りを燃やした下人は刀を抜き、老婆に襲いかかった。老婆は、抜いた髪で鬘を作って売ろうとしていた、と自身の行いを説明する。さらに彼女はこう続ける。「抜いた髪で鬘を作ることは、悪いことだろう。だが、それは自分が生きるための仕方の無い行いだ。ここにいる死人も、生前は同じようなことをしていたのだ。今自分が髪を抜いたこの女も、生前に蛇の干物を干魚だと偽って売り歩いていた。それは、生きるために仕方が無く行った悪だ。だから自分が髪を抜いたとて、この女は許すであろう。」と。 髪を抜く老婆に正義の心から怒りを燃やしていた下人だったが、老婆の言葉を聞いて勇気が生まれる。そして老婆を組み伏せて着物をはぎ取るや「己もそうしなければ、餓死をする体なのだ。」と言い残し、漆黒の闇の中へ消えていった。下人の行方は、誰も知らない。
芥川龍之介
芥川龍之介
日本

著者の概要

ジャンル

[ "文学", "東洋文学", "日本文学", "近代日本文学" ]

著者紹介

明治・大正期を代表する作家の一人であり、35年の生涯の中で多くの優れた作品を生み出した。作品の多くは短編小説であり、中でも『芋粥』『藪の中』『地獄変』など、『今昔物語集』『宇治拾遺物語』といった古典から題材をとったものから、『蜘蛛の糸』『杜子春』などの児童向け文学まで幅広く知られている。 菊池寛や久米正雄ら高校の同級生たちと 文芸雑誌である『(第3次)新思潮』を創刊。その後23歳の若さで発表した『羅生門』で一躍脚光を浴びる。その後も『鼻』『蜘蛛の糸』などの作品で注目され続け、27歳では結婚し順風満帆に見えたが、妻とのすれ違いからの離婚や、自身の恋多き性格が招いた災難、実家のトラブルなど多くの問題に見舞われ、徐々に精神をすり減らし、ついに35歳のとき服毒自殺を図り、その短い生涯を終えた。没後、菊池寛により芥川賞が設けられ、今日まで続く純文学の最も権威ある賞の一つとなっている。