老年について
『 老年について 』
キケロ
紀元前44年
古代ギリシア・ローマ哲学

名著の概要

ジャンル

[ "哲学", "西洋哲学", "古代ギリシア・ローマ哲学" ]

テーマ

人生について 老いについて 死について

概要

人生における老いと死について論じた古典作品である。古代ローマの政治家・文人大カトーが文武に秀でた二人の若者を自宅に招き自らの到達した境地から老いと死と生について語る、という形をとった対話篇。古代ローマの哲学者・政治家キケロー(前一〇六‐前四三)が人生を語り、老年を謳い上げる。

目次

内容

政治から失脚し家族とも離別した苦境の中で、キケロはギリシア哲学の執筆に従事した。その中の一作が本書である。本書はキケロ独自の思想を述べたものではなく、ギリシア哲学のストア派の道徳的処世論などの多くの著作を参考にしながら折衷した内容になっている。 古代ローマ第一の学者にして政治家・弁論家キケロー(前106―前43)が人としての生き方を語り,老年を謳い上げた対話篇.84歳になる古代ローマの政治家・文人大カトーが文武に秀でた二人の若者を屋敷に迎えて,自らの到達した境地から老いと死と生について語る,という構想のもとに進められる.悲観的に,ではなく積極的に老いを語った永遠の古典。 「人生80年」という長寿の時代が到来すると言われて久しいですが、日本の平均寿命の推移を見るならば、それは既に実現していると言ってもいいでしょう。  もちろん、ここで言われているのはあくまで「平均」寿命であり、これより短い生を送る人も、長く生きる人もいます。平均はどこまでいっても平均なのであって、「誰もが80年の人生を生きる」という保証ではないということです。  しかし、このことをよく分かっているつもりでも、実際のところ、死は老年になってから訪れるものであると考える傾向が私たちにあることもまた事実でしょう。老年とは「さまざまな力が弱っていき、できなくなることが多くなるような、死に近い年代である」という考え方です。  このような一般的な考え方を鮮やかにひっくり返してみせたのが、ローマの政治家であり、多くの哲学的著作を著したキケロー(BC106-BC43)です。キケローはまず、老年に対して持たれているイメージの理由を次のように示します。 老年が惨めなものと思われる理由は四つ見出される。第一に、老年は公の活動から遠ざけるから。第二に、老年は肉体を弱くするから。第三に、老年はほとんど全ての快楽を奪い去るから。第四に、老年は死から遠く離れていないから。(同書22頁)  キケローは以下のように反論をしていきます。第一に、老人は確かに若者と同じことをしているわけではないが、その代わりに思慮・権威・見識によって、公の仕事には関わることができると指摘します。第二に、老いても元気でいる人がいることからも分かるように、肉体の衰えが全ての老年に見られるのではないと述べます。第三に、快楽を追い求めないということは、それにとらわれる必要がないということであり、むしろ老年に対するほめ言葉であると論じます。  そして最後に、死はあらゆる年代に共通のものであることを示します。永遠に続くものなどなく、人生もまたその通りであり、死とは航海を終えて港に入るような喜びですらあるとキケローは表します。しかし同時に、その死がいつ訪れるものであるかは誰にも分からないために、死への準備を怠ると平静な心ではいられなくなるはずだとも記します。  魂の不死というプラトンの説をふまえて、キケローは死を怖れることは不要であると言います。むしろ、いつ訪れても不思議ではない死に対して準備をすることが必要なのであるということを、標記のことばは伝えている
キケロ
キケロ
ローマ

著者の概要

ジャンル

[ "哲学", "西洋哲学", "古代ギリシア・ローマ哲学", "政治学", "西洋政治学", "西洋古代政治学" ]

著者紹介

共和政ローマ末期の政治家、文筆家、哲学者。ラテン語でギリシア哲学を紹介し、アリストテレスの教えに従う古アカデメイア学派の弁論術・修辞学を評価し、その中で自身が最も真実に近いと考える論証や学説を述べた。その著作は、ルネサンス期にはペトラルカに称賛され、エラスムス、モンテスキュー、カントなどに多大な影響を与えた。