自殺論
『 自殺論 』
デュルケム
1897
西洋現代社会学

名著の概要

ジャンル

[ "社会学", "西洋社会学", "哲学", "西洋哲学", "西洋現代社会学", "西洋現代哲学" ]

テーマ

社会学について 自殺について

概要

19世紀後半に欧州の自殺率の急上昇が話題になる中、デュルケームが39歳の1897年に公刊された『自殺論』には「社会学研究」というサブタイトルがあり、先述の「社会的事実」を客観的かつ実証的に分析し、その実態を具体的な事例によって明らかにしようとしたデュルケームの意欲作である。

目次

内容

当時のヨーロッパ各国での自殺率が短期間ではほぼ一定値を示した統計資料などから、各社会は一定の社会自殺率を持っているとし、社会の特徴によって自殺がどのように異なるかを明らかにしようとした。デュルケームは、この研究において自殺を個々の人間の心理から説明するのではなく、社会的要因(社会的事実)から4つに類型化している。 なお、公刊の2年前に著書『社会学的方法の基準』においてデュルケームは、「社会的事実の決定要因は、個人の意識ではなく先行した社会的事実にもとめねばならない」という説明の公準をたてており、その適用を本書で試みている。 利他的自殺(集団本位的自殺) 集団の価値体系に絶対的な服従を強いられる社会、あるいは諸個人が価値体系・規範へ自発的かつ積極的に服従しようとする社会に見られる自殺の形態。 献身や自己犠牲が強調される伝統的な道徳構造を持つ未開社会、さらにその延長線上にある軍隊組織に見られる自殺・殉死などが該当する(一般人よりも軍人のほうが自殺率が高く、軍隊内では工兵や後方支援部隊の兵士よりも戦闘部隊の兵士のほうが自殺率が高い) 利己的自殺(自己本位的自殺) 過度の孤独感や焦燥感などにより個人が集団との結びつきが弱まることによって起こる自殺の形態。個人主義の拡大に伴って増大してきたものとしている。 デュルケームによればユダヤ教徒よりもカトリック教徒、カトリック教徒よりもプロテスタント教徒のほうが自殺率が高く、農村よりも都市、既婚者よりも未婚者の自殺率が高いなどと言ったように個人の孤立を招きやすい環境において自殺率が高まるとしている。 ただし、宗教別の自殺率の比較は、その後の研究によって統計上の誤りが証明され、デュルケームが指摘するほどに大きな違いがないことが明らかになっている。 アノミー的自殺 社会的規則・規制がない(もしくは少ない)状態において起こる自殺の形態。集団・社会の規範が緩み、より多くの自由が獲得された結果、膨れ上がる自分の欲望を果てしなく追求し続け、実現できないことに幻滅し虚無感を抱き自殺へ至るものである。 つまり、無規制状態の下で自らの欲望に歯止めが効かなくなり、自殺してしまうもので、不況期よりも好景気のほうが欲望が過度に膨張するので自殺率が高まる。 宿命的自殺 集団・社会の規範による拘束力が非常に強く、個人の欲求を過度に抑圧することで起こる自殺の形態。デュルケーム自身は、この自殺類型に関して具体的な事例を挙げていないが、宮島喬は身分の違いによって道ならぬ恋を成就できずに自殺へ至る「心中」がこれに該当するものとしている。
デュルケム
デュルケム
フランス

著者の概要

ジャンル

[ "社会学", "西洋社会学", "哲学", "西洋哲学", "西洋現代社会学", "西洋現代哲学", "宗教学", "西洋宗教学", "宗教論" ]

著者紹介

フランスの社会学者。 オーギュスト・コント後に登場した代表的な総合社会学の提唱者であり、その学問的立場は、方法論的集団主義と呼ばれる。また社会学の他、教育学、哲学などの分野でも活躍した。 当時としては斬新な独自の視点から社会現象を分析し、経験科学としての社会学の立場(社会学主義)を鮮明に打ち出した人物である。実証主義の科学としてオーギュスト・コントによって創始された社会学が、未だに学問として確立されていない状況を見たデュルケームは、他の学問にはない独自の対象を扱う独立した科学としての地位を築くために尽力した。 社会学を「道徳科学」と位置づけ、諸個人の統合を促す社会的要因としての道徳(規範)の役割を解明することであると考えた。社会学の分析対象は「社会的事実」であることを明示した。 「社会的事実」とは、個人の外にあって個人の行動や考え方を拘束する、集団あるいは全体社会に共有された行動・思考の様式のことであり、「集合表象」(直訳だと集合意識)とも呼ばれている。つまり人間の行動や思考は、個人を超越した集団や社会のしきたり、慣習などによって支配されるということである。