藪の中
『 藪の中 』
芥川龍之介
1922
現代日本文学

名著の概要

ジャンル

[ "文学", "東洋文学", "現代日本文学", "日本文学", "日本・純文学", "純文学" ]

テーマ

古典をモチーフにした作品 人間模様 未完結の物語

概要

芥川の作品のうち、今昔物語集をモチーフにした作品群である「王朝物」の最後の作品。殺人と強盗という事件を巡って、当事者の男女三人の証言が展開されるが、それらは互いに矛盾しており、読了しても「事件の真相」は分からないという革新的な作品であり、本作をいかに読み取るか、芥川の意図は何だったのかなど、多岐にわたるテーマが今なお議論されている。タイトルの「藪の中」は、現在では事件などの真相が分からないという意味の一般名詞としても広く知られている。黒澤明の映画『羅生門』の原作としても知られる。

目次

内容

今昔物語集の巻二十九第二十三話「具妻行丹波国男 於大江山被縛語(妻を具して丹波国に行く男、大江山において縛らるること)」を下敷きに、とある藪の中で起こった事件を描いている。 事件は、とある藪の中で男の死体が見つかり、検非違使が関係者たちへ尋問するところから始まる。するとどうやら、死んだ男と、その妻の女、そして盗人の多襄丸が事件に関わっていると分かった。多襄丸曰く、「女を我がものとするため、夫婦を騙し男を縛り上げた上で、女を襲い強姦した。すると女が、『二人の男に恥を見せた。決闘してどちらかが死んでくれ。勝ったほうのものになろう』と嘆願したため、男と太刀打ちして見事殺したが、その間に女はどこかに消えていた。」 一方清水寺に懺悔に向かった女が語るには「夫は盗人に犯された自分を蔑んだ。もう生きていけないと思い、夫を殺して自分も死のうと思ったが、夫を殺した後も自殺する踏ん切りがつかず、今も生きている」と。 さらに、巫女の口を借りた男の死霊が語るには「妻は盗人に言いくるめられ、自分を捨てようとした。その後妻は逃げたが、絶望のあまり自分は自殺したのだ」と。 このように、当事者の証言は微妙に食い違い、他にも目撃者・関係者の証言も矛盾する。まさに事件の真相は「藪の中」である。
芥川龍之介
芥川龍之介
日本

著者の概要

ジャンル

[ "文学", "東洋文学", "日本文学", "近代日本文学" ]

著者紹介

明治・大正期を代表する作家の一人であり、35年の生涯の中で多くの優れた作品を生み出した。作品の多くは短編小説であり、中でも『芋粥』『藪の中』『地獄変』など、『今昔物語集』『宇治拾遺物語』といった古典から題材をとったものから、『蜘蛛の糸』『杜子春』などの児童向け文学まで幅広く知られている。 菊池寛や久米正雄ら高校の同級生たちと 文芸雑誌である『(第3次)新思潮』を創刊。その後23歳の若さで発表した『羅生門』で一躍脚光を浴びる。その後も『鼻』『蜘蛛の糸』などの作品で注目され続け、27歳では結婚し順風満帆に見えたが、妻とのすれ違いからの離婚や、自身の恋多き性格が招いた災難、実家のトラブルなど多くの問題に見舞われ、徐々に精神をすり減らし、ついに35歳のとき服毒自殺を図り、その短い生涯を終えた。没後、菊池寛により芥川賞が設けられ、今日まで続く純文学の最も権威ある賞の一つとなっている。